先週と今週は「香りの科学」が開講されていません。先週は学部祭の準備のため、そして今週は祝日のためです。
授業がないときでも、ぜひ、色々な匂いに興味を持って嗅いでいただきたいです。
さて、先日立派な栗を頂きまして、美味しそうだったのですぐに茹でました。
栗の下処理は本当に大変ですね。特に皮むきが大変!
去年、京都に住んでいましたので奮発して丹波栗を購入し、茹でて以来一年ぶりの作業でした(ここでは詳しく書きません)。
茹でるときに私は塩を少し多めに入れて茹でます。普通は入れないかもしれませんね。栗は確かに甘いのですが優しい甘さというか、残念ながらさつまいものようなしっかりした甘さを感じにくいですね。ですので、塩を入れることによって、甘味が増強される効果を利用しているわけです。(あんこを作るときに塩を入れるのと考え方は一緒です。)おかげさまで、茹で上がった栗は甘くおいしいものに!
茹でた栗を使って、ド定番ですが栗ご飯を作りました。秋ですね!
そこで、今回は、栗の香りについて調べてみました。
毎年お目にかかる栗ですが、蒸し栗、茹で栗、焼き栗いずれにしても匂い成分分析の論文は古いものばかりでした。茹で栗について紹介します。
最も匂いの寄与度の高い成分は、3-メチルチオプロパナール。これは単独だと茹でたじゃがいもっぽい匂い、しょうゆっぽい匂い、出汁っぽい匂いがしますが、茹で栗の場合、焦げた感じを表していたそうです。
この成分は、メチオニンというアミノ酸のメイラード反応(同時に起こるストレッカー分解)で生成されるアルデヒドです。もともと栗に含まれていたメチオニンが、茹でるという調理工程を経て、ストレッカー分解によって3-メチルチオプロパナールとなったと考えられます。
最も匂いの寄与度の高い成分はもう1種類あって、ダマセノンです。これは単独だと、モッタリした重めのフローラル、バラっぽい匂い、芋焼酎のようなネットリ・モッタリした匂いがします。茹で栗のホクホク感、モッタリ感、ネットリ感はおそらくダマセノンのせいかも。
この成分が茹で栗から検出されたことにははじめびっくりしましたが、よく考えたら納得できました。栗にはそもそもカロテノイドが入っています。栗が黄色いのはそのせいですね。おそらく、栗にもともと含まれていたカロテノイド開裂酵素が茹でるという調理工程で活性化し、カロテノイドからダマセノンが生成されたのだと思います(実際はどうなのでしょう・・・もう少し文献等調べて見る余地ありですね)。ですので、生栗中にはダマセノンはあまり多くないのでは?と思っています。
ダマセノンの構造式を作ってみました。構造式を見ると、カロテノイド由来ということがわかるかもしれませんね。
これら2種類の匂い成分以外にも、4-ビニルグアイアコール(煙っぽい匂い、薬品っぽい匂い)やcis-イソオイゲノール (甘いクローブっぽい匂い)の寄与度も高いようです。
ちなみに、こんなことを常に考えながら食事をしているわけではないです!食事のときは食事を存分に楽しみます!