私は若い頃、肉があまり得意ではありませんでした。ほとんど食べませんでしたね。
しかし、その後徐々に肉のおいしさにとりつかれ、毎日おなかいっぱい食べたいくらい大好きになりました。
ただ、肉には、果物や野菜のように特徴的な匂いがないですね。生肉から食欲をそそられるような匂いはしてこないです。ところが、焼いたり、煮込んだり、揚げたりするとそれはそれは美味しそうな匂いがします!これにはメイラード反応が関係しているのですが、今日は肉の調理過程でのメイラード反応(アミノ化合物とカルボニル化合物の非酵素的褐変反応)に伴う匂いと、今流行りの熟成による匂いについて考えたことを書こうかなと思っています。
実は先日すごく大きい牛肉ステーキを食べました!主観的な感想として、あまりサシのない赤身肉なのに、サーロインもヒレもとにかく柔らかくて、ジューシーで美味しい!ほんの少しだけ酸味があるけど、バターのような風味と合わさってまろやか。匂いは、ラードとバターの匂いが強いけれど、強いロースト臭とどことなく出汁っぽい匂いがしました。
強いロースト臭がしたのは、メイラード反応のせいだと思います。ピラジン系の匂いを主に感じましたが、その奥の方でチアゾール系の強い匂いを感じました。どちらも基本的にはロースト臭ですが、私は、ピラジン系は深みやナッツっぽい匂いを伴った様に感じて香調表現しますし、チアゾール系はツンとするようなpungentな感じ、ちょっと黒焦げ感があるようなロースト臭というような香調で表現します。正解はあるのかなぁ?
ところでこの牛肉はドライエージングをしているのだそうです。熟成肉、流行ってますね!柔らかくおいしいし、匂いも良いようです。名城大学の林先生がコラムを紹介してくださいました。わかりやすいですね!
焼く前の牛肉の匂いを嗅いでいないのがとっても残念なのです・・・。
熟成によって遊離するペプチドやアミノ酸の量が多くなりますので、メイラード反応に関わるそれらも多くなるということです。そうなると加熱した後の匂いが、普通の牛肉と異なるだろうというのは容易に想像できると思います。私が感じたピラジン系やチアゾール系の匂いは、その化学構造にN(窒素)やS(硫黄)がありますので、アミノ化合物から生成されています。それがドライエージングビーフステーキの匂いのプロフィールの核になるのかな、なんて思ってしまいました。
一方で和牛肉では、タフな赤身肉よりも、サシ(霜降り)がたくさん入っていますよね。和牛肉を加熱したときに生成する甘い脂っぽい匂い(和牛香と言います)にはココナッツ様あるいはピーチ様でおなじみのγ-ノナラクトンをはじめとするラクトン類が関与しています。最近では、それ以外にも、甘ったるいキャラメルのような香調を持つフラネオール(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン)が寄与していることが分かってきています。フラネオールは、その化学構造を見るとよく分かりますが、明らかにカルボニル化合物由来です。サシが多く入っている和牛肉のステーキからはカルボニル化合物由来の匂い成分が、そして赤身のドライエージング牛肉のステーキからはアミノ化合物由来の匂い成分が、強く寄与しているのでしょう。
わくわく!